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「そうだ、これ。」
『ん、なにこれ？』
「サンドイッチ。なんも食ってねえだろ？腹に入れとけ。」
『もしかしてユンギが作ったの？』
「作ったって言うか‥昨日Aが作ったパン残ってたから適当に色々挟んだだけㅋㅋ」
『そうなんだㅋㅋ嬉しい、ありがとう。』
手に持っていた紙袋には何が入っているのかと思っていたのだ。後で俺にも食わせて、と中から包みを渡された。向かっているのは少なくとも飲食店のあるような場所ではないらしい。
まるで昔のようだ。デビュー当時、二人でたまに居残り練習を抜け出したり、休日はよく出掛けた事を思い出す。思えば活動が忙しくなってからというものの、こうして休日を一日使って外に出る事なんてほぼ無かった。世界的アーティストと呼ばれるようになってからは何も考えずに遊んだという記憶がない。彼の横に座りながら、得も言われぬ懐かしさを感じていた。
『あとどのくらいなの？』
「この速度ならあと30分くらいか。急ぐ？」
『ううん、ユンギと二人で出掛けるの久しぶりでしょ？‥だからゆっくりでいいよ。』
「‥そうだな。」
実のところ、Aは寂しかった。それに加えて、あの事件をきっかけに自分の気持ちに正直になると心に決めたのは良いが、未だ何もできないでいる自分に漠然としない不安だけが日々肥大化していく。だからこそ思わず溢してしまったのだろう本音にAは内心照れていた。
「心配しなくても、これまで以上に二人の時間作るつもりだから。つか意地でも作る。」
心の中まで見透かすようなユンギの言葉にAはハッと顔を上げる。決してその場凌ぎや冗談等で言ったのではない事は、彼の声色や横顔を見ればすぐ分かった。同時に胸にじんわりとあたたかいものが広がる。Aは窓の外に目を向けたまま返事をするので精一杯だった。
‥‥‥
『ハヌル公園なんて本当久しぶりじゃない？相変わらず広いね。』
「最後に来たのいつだっけな‥。でもワールドカップ競技場は去年ぶりだろ？」
『‥ユンギは居なかったけど。』
あれから二人を乗せた車はワールドカップ公園近くの駐車場に停まった。今はハヌル公園の頂上を目指すべく電気バスに乗っている。目と鼻の先にあるワールドカップ競技場では去年、ユンギ不在のMAMAで"ON"を披露したことはまだ記憶に新しい。そしてパフォーマンス後、いつもなら左にいるはずのユンギの背に回す腕が虚しくも空を掴んだ事も、今でも鮮明に覚えている。
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作者名：mitsu | 作成日時：2021年9月26日 14時
